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2026-10-03業界のしくみ

「タワマン増税」、実は2つの税があります

「タワマン増税」、実は2つの税があります

「タワマンの高層階は固定資産税が高くなるんですよね」。この話、最近よく聞かれるようになりました。

ただ、ここで一つはっきりさせておきたいことがあります。世間で「タワマン増税」として話題になっている話には、実はまったく性質の違う2つの税金の話が混ざっています。一つは、所有している限り毎年かかる固定資産税の「階層別補正」。もう一つは、相続のときだけ関係する相続税の「タワマン節税」規制です。この2つを分けて考えないと、自分にとって本当に関係のある話がどちらなのか、見えなくなってしまいます。

順番に整理していきます。

固定資産税の階層別補正とは

2017年度の税制改正で、高さ60m超のタワーマンション(2018年度新築分から適用)は、固定資産税・都市計画税の按分方法が変わりました。それまでは専有面積の割合だけで各戸の税額を按分していましたが、改正後は階層が上がるほど補正率が上がる仕組みが加わっています。具体的には、1階を100として、1階上がるごとに10を39で割った数値(約0.26)を加算していきます。40階の住戸なら、1階の同じ面積の住戸より、建物部分の評価額が約10%高く按分される計算です。

これだけ聞くと、それなりに大きな差に思えるかもしれません。実際に金額でシミュレーションしてみます。

都心タワマン(新築1.2億円想定)郊外マンション(新築4,000万円想定)
固定資産税評価額(購入価格の60%と仮定)7,200万円2,400万円
うち建物部分(都心は60%、郊外は70%と仮定)4,320万円1,680万円
40階と1階の評価額差(10%)約432万円約168万円
固定資産税+都市計画税の年間差額約7.3万円約2.9万円
30年保有した場合の累計差額(経年による評価額の目減りを加味した概算)約132万円約52万円

※評価額の算出方法は物件や自治体によって異なるため、上記はあくまで目安としての試算です。また、新築住宅に適用される軽減措置(新築後5〜7年間、建物部分の税額が1/2になる制度)はこの試算に反映していません。実際には、入居から数年間の差額はこれよりさらに小さくなります。

都心の方が絶対額では大きくなりますが、それでも年間数万円、物件価格全体(億単位)から見れば、誤差と言えるレベルの金額です。

その差額、実は「誤差レベル」という評価があります

この補正率について、資産評価システム研究センター(総務省所管の調査研究機関)の報告書でも、興味深い指摘があります。実際のタワーマンションでは、低層階と高層階の分譲価格の差は、階層別補正率が想定する10%という水準よりもずっと大きいことが一般的です。都心の人気タワーマンションでは、最上階クラスの住戸が低層階の2倍以上の価格で取引されることも珍しくありません。

つまり、固定資産税の階層別補正は、実際の価格差を反映しきれていない、不十分な補正だという評価がすでに専門家の間ではされています。

もちろん、この指摘は本来「補正がまだ不十分だから、もっと強化すべきだ」という問題提起の文脈で書かれたものです。それを「だから検討者は気にしなくていい」という結論に読み替えるのは、論理が飛躍しているという見方もできます。また、「物件価格が億単位だから相対的に誤差」という比較の仕方自体、年間7万円・30年で132万円という金額を軽視しすぎているという指摘も、一般的な金銭感覚としてはもっともだと思います。

ただ、ここで言いたいのは「無視していい金額」ということではなく、**「物件選びの意思決定軸としての優先順位は低い」**ということです。間取りの使い勝手やマンション内立地による坪単価10%の差(大規模マンション、隣の部屋はなぜ高く売れるのか?参照)、管理費の値上がり幅など、同じマンション選びの中で実際の資産性・負担を左右する要素は他にいくつもあります。もちろん、こうした「個別には小さい」費用が積み重なれば、トータルでは無視できない負担になるという指摘も正しいです。だからこそ重要なのは、数ある「小さなコスト要因」の中から、どれが実際に自分にとって無視できない規模になりうるかを見極めることです。固定資産税の階層差は、他の要因と比べても相対的に小さく、優先順位としては低い、というのが実務者としての見立てです。

相続税の「タワマン節税」規制とは

一方、世間で「タワマン増税」として大きく報じられているのは、こちらの相続税の話であることがほとんどです。

タワーマンションは、実勢の市場価格に対して、相続税評価額(路線価方式による評価)が大幅に低くなる傾向がありました。高層階になるほどこの乖離は大きくなり、これを利用して相続税を圧縮する「タワマン節税」が広く行われてきました。

この流れに歯止めをかけたのが、2022年4月の最高裁判決です。相続開始の直前にタワーマンションを購入し、路線価での評価によって相続税をほぼゼロにしようとした事例について、最高裁は路線価による評価を認めず、不動産鑑定評価額を基準とする課税処分を支持しました。この判決が契機となり、2024年1月から相続税評価の算定方法そのものが見直されています。改正後は、評価乖離率が1.67倍以上の物件について、市場価格理論値の60%を評価額の下限とするルールが導入されました。これにより、従来2,500万円程度だった評価額が、新ルールでは5,000万円近くまで引き上がるようなケースも出てきています。

誰にとって関係のある話なのか

ここまで整理すると、見えてくることがあります。

固定資産税の階層別補正は、タワーマンションを所有している人全員に関係しますが、金額は年間数万円程度と小さいものです。一方、相続税の節税規制は、影響額こそ大きいものの、「将来その物件を相続財産として引き継ぐ予定がある人」にしか関係しません。自分で住むために購入して、自分の代で売却するつもりの一般的な実需層には、ほとんど無関係な話です。

ここで一つ補足しておきたいのは、「相続予定がある人にしか関係ない」と言い切るのは、厳密には正確ではないということです。今は自分で住むために買っていても、将来的な事情の変化で子に残すことになったり、所有者本人の不測の事態によって、誰にでも相続は起こり得ます。完全に無関係と言い切れる人は、実はそれほど多くありません。

それでもなお言えるのは、「確率としてどちらに備えるべきか」という話です。相続税の節税規制は、相続が発生した場合には大きな影響がありますが、その発生確率・タイミングは不確実です。一方、固定資産税の階層差は、所有している限り確実に、しかし小さく発生し続けます。どちらも完全に無視していい話ではありませんが、検討段階で優先的に確認すべきは、むしろ**「将来この物件をどうするつもりか(売却するのか、誰かに残すのか)」という自分自身の方針**であって、「階層によっていくら変わるか」ではない、というのが実務者としての整理です。

ところが、メディアでは「タワマン増税」という一つの見出しで、この2つがまとめて語られがちです。実際には相続税の話であるにもかかわらず、「タワーマンション住民にのしかかる大増税」というような見出しがつくこともあります。見出しだけを見ると、自分にも関係のある話のように感じてしまいますが、実態は違います。もちろん、一般読者向けの報道が厳密な制度区分より、タワマンを取り巻く税制環境全体の厳しさを伝えることを優先するのは、ジャーナリズムとして一定の合理性があるとも思います。ただ、検討者自身が「自分にとってどちらの話なのか」を切り分けられないままでは、判断を誤らせるリスクの方が大きいと感じています。

まとめ

タワマンの固定資産税は、確かに階層によって差がつきますが、実勢の価格差に比べれば誤差レベルです。本当に大きな影響があるのは相続税の話であり、しかもそれは一部の層にしか関係しません。「タワマン増税」という言葉に漠然とした不安を持つより、自分にとってどちらの税金が、どの程度関係のある話なのかを、まず切り分けて考えることをおすすめします。